愛|聖カピタニオ女子高等学校|校長ブログ

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【おすすめBOOK④】サン=テグジュペリ『星の王子さま』―紹介その2

白いアジサイ

正門横の花壇の紫陽花(あじさい)です。

◇キツネとの出会い◇

 草原で王子さまは一匹のキツネと出会います。孤独な気持ちを抱えた王子さまは、キツネと友達になりたいと思いました。しかしキツネは友達になるには「飼いならす」ことが必要だと言います。「飼いならすってどういこと?」と王子さまが聞き返すと、「仲よくなることさ」とキツネは答えます。これ、よく分らないですよね。キツネだから「飼いならす」という言葉を使ったと思うのですが、「飼いならす」というと主従関係のような気がして「友達になる」こととは掛け離れた気がしてしまいます。こういう疑問を感じながら読むのがスロー・リーディングの醍醐味です。スーッと読めなくて何か「引っ掛かり」があるんですね。そして考える。気になって調べると、「飼いならす」はフランス語の原文では「créer des lines(直訳は、ひもでつなげる)」となっているんですね。「飼いならす」よりもっとシビアです。放し飼いでもなく、ひもで繋ぎ留めてしまうのだから。サン=テグジュペリはどうしてこんな表現を使ったのでしょう?

◇「愛」の本質を語るキツネ◇

 「動物を繋ぎ留めるひも」を漢字でどう書くかを考えるとこの疑問は一気に解けます。この意味の漢字は「絆」です。これは訓(日本語の発音)で読むと「きずな」と読みます。サテグジュペリは当たり障りのない表現でなく、わざとこういう表現を使って、愛の本質を伝えようとしていると思います。真の友情や愛情とは、そう簡単なものではない。強い関係を結ぶもので、つながることはつなげることでもあり、相手との連帯感を感じる時もあれば束縛を感じたりすることもある、と。そして「絆」は相手に対する責任を伴うことも意味します。キツネはさらに愛の関係には共通の「きまり」や、相手に対して「ひまつぶし」をすることが必要だとも語ります。これについては実際に読んで考えてみてください。キツネから愛することがどういうことかを教わった王子さまは花が自分にとって、かけがえのない存在だったことに気づきます。最後にキツネは王子さまにもうひとつ一番大事な「秘密」を教えます。これも読んでからのお楽しみです。

◇『星の王子さま』の楽しみ方いろいろ◇

 『星の王子さま』には物語を味読する以外にもさまざまな楽しみ方があります。まず何と言ってもサン=テグジュペリが自ら描いたイラストが魅力的です。何とも言えない味がありますよね。アニメ化もされています。グッズもいろいろあります。何年か前に『星の王子さま』の切手が発行された時、私は「即買い」しました。バレンタインデーのチョコでも『星の王子さま』シリーズが出ていました。

 箱根に「星の王子さまミュージアム」があるので、お近くにお寄りの際は是非行ってみてください。もちろん関連グッズもいっぱい売っています。

 世の中には『星の王子さま』の愛読者がたくさんいて、いろんな本に引用されたり、着想を得てストーリーに組み込まれたりしています。解説した本もいくつもあります。私はこれらを見つけると「やっぱり『星の王子さま』っていいよね」とその著者たちと対話したような気分になります。

 若者の間で大ベストセラーになった住野よるの『君の膵臓をたべたい』(双葉社、2015)も『星の王子さま』をオマージュした小説です。浜辺美波・北村匠海主演で映画化、劇場アニメも製作され、好評を得ました。明るく健気な高校生の桜良(さくら)と、人との関わりを避ける孤独な高校生「僕」との切ない恋愛小説です。桜良の愛読書で、「僕」に貸す本として『星の王子さま』は実際に作中に登場しますが、単なる小道具として使われているのではありません。作品の根本的なテーマに深く関わっています。すなわち桜良と「僕」との関係は明らかにキツネと王子さまとの関係を投影したものです。『星の王子さま』を読んでいると、作品の理解がぐっと深まると思います。

校長 村手元樹

*内藤濯さん翻訳の単行本が2017年に文庫本化されました。待望の文庫本(岩波文庫)です。

*中学生の皆さん、「高校生活入門セミナー2022」でも「星の王子さま」の講座が開かれます。よかったら参加してみてください。

 

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【おすすめBOOK④】サン=テグジュペリ『星の王子さま』―紹介その1

つまごいの赤いバラ

修養会の時、つま恋に咲いていた赤いバラの花です。

◇人類必読の書◇

 「人類必読の書」と言うと大げさかもしれませんが、そのくらいおススメという意味です。人生で一度は手に取ってほしい本です。『星の王子さま』は今から80年ほど前、1943年に出版され、その後も読み継がれ、300以上の国と地域に翻訳され、発行部数は2億冊を超えるそうです。テーマは一言で言うと「愛」。「愛って何だろう?」ということを考えさせてくれます。キリスト教の考え方が根底に流れていますので、カトリックの「愛」の精神を肌で感じるのにも最良の本です。童話の形をとり、対象年齢は小学生からとなっていますが、たぶん小学生には深い部分は分からないと思います。その疑問を抱えながら、じっくり読んでは考え、長い時間をかけて何度も読み直していく、いわゆるスロー・リーディングに適した本です。

◇サン=テグジュペリと内藤濯◇

 作者のサン=テグジュペリはフランスの作家です。生まれた年は何と1900年。覚えやすいですね。彼は作家であると同時にパイロットでした。飛行機と言っても旅客機ではなく、一人乗りのもので、郵便物を運んでいました。第二次世界大戦では偵察機に乗り、1944年上空で消息を絶ち、還らぬ人となってしまいました。飛行機乗りだったことは彼の文学に大きな影響を与えていると思います。地上を俯瞰(ふかん・・・全体を上から見ること)する習慣は、肝心なことを見落としがちな人間社会を客観的に捉え直す目を養いました。

 この作品は1954年、内藤濯(あろう)さんによって翻訳されました。名訳もさることながら、『星の王子さま』という邦題をつけたのは大きな功績です。原題の『Le Petit Prince』の直訳『小さな王子さま』だったら日本でこれほど有名にならなかったかもしれません。『赤毛のアン』なども同様ですが、邦題はその作品のその後の運命を左右します。

◇王子さまの赤い花◇

 『星の王子さま』の全体構成は、①「ぼく」の操縦する飛行機が砂漠で不時着をし、一人しか住めない小さな星から地球にやってきた幼い王子さまと出会う、②王子さまの、これまでのさまざまな体験談を「ぼく」が聞く、③王子さまと「ぼく」が砂漠で別れる、というのが大きな枠組みです。「ぼく」はサンテグ=ジュペリがモデルです。彼は実際に砂漠に不時着した経験があります。

 王子さまの体験談の主旋律は、王子さまの赤い花への思いです。どこかから飛んできたトゲのある、たった一輪の赤い花です。最初はその花の美しさが誇らしく幸せだったのですが、花の、プライドが高く、わがままな言動に嫌気がさすようになります。赤い花は擬人化されていて、喋ったり、あくびをしたり、咳をしたりするんですね。何しろ童話ですから。やれ水をくれだの、風よけの衝立を立てろだの、気むずかしい態度で王子さまに接します。いわゆる「ツンデレ」です。花のことを思う自分のやさしい気持ちが花に通じず、愛に傷ついた王子さまは自分の星を飛び出してしまいました。王子さまはその時のことを振り返って「ぼく」にこう言います。

   「ぼくは、あんまり小さかったから、あの花を愛する

    ってことが、わからなかったんだ」

◇愛を学ぶ旅◇

 王子さまは星を飛び出し、放浪の旅に出るのですが、それは結局「愛とは何か」を学ぶ旅だったと思います。六つの星を巡り、最後地球にやってくるのですが、ある時、王子さまにとって衝撃的な光景を目にします。それはたった一輪の珍しい花だと思っていた王子さまの花と似た花が、庭に五千くらい咲いていたのです。バラという名前の花です。王子さまはショックで泣いてしまいます。そこに現れるのが一匹のキツネです。王子さまはキツネから大切なことを教わるのです。ちなみに私の大好きな場面です。

校長 村手元樹

 *サン=テグジュペリ(内藤濯訳)『星の王子さま』(岩波文庫、2017)ほか。

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