【せっかくBOOK③】サン=テグジュペリ『星の王子さま』その2
2025.05.08

パンジー @マリア像前の花壇


 

『星の王子さま』の全体構成

 ではいよいよ『星の王子さま』の中身に触れていきます。まず全体構成を確認しておきましょう。①「ぼく」の操縦する飛行機が砂漠で不時着をし、一人しか住めない小さな星から地球にやってきた幼い王子さまと出会う、②王子さまの、これまでのさまざまな体験談を「ぼく」が聞く、③王子さまと「ぼく」が砂漠で別れる、というのが大きな枠組みです。「ぼく」はおそらく実際に砂漠に不時着した経験があるサン=テグジュペリがモデルです。

 

本当に大切なことは目に見えない

 
 「心でみなければ、ものごとはよく見えない。本当に大切なことは目に見えない」というが、『星の王子さま』の一番重要なメッセージです。これは冒頭から既に暗示されます。「ぼく」が6歳の時、下のような絵を描いたというエピソードが出てくるんです『星の王子さま』の味のある挿絵はサン=テグジュペリ本人の筆によるものです


 これ、何だか分かりますか? 大人たちに見せても何の絵か、分かってもらえません。ある人は帽子の絵だと言います。実はウワバミ(大きな蛇)が象を丸ごと飲み込んでいる絵なんです。
 「ぼく」が砂漠で遭難して、そんなことを回想していたら、星の王子さまが現れてなぜか「ぼく」に羊の絵を描くように頼みます。いろいろ描いても気に入らない。自棄(やけ)になって箱の絵を描いて、この中にいると告げると、王子さまは目をきらきら輝かせます。王子さまの望んでいた羊が箱の中にいたんですね。

 後半にこのメッセージは明確に示されます。他の星でいろいろな経験をした後、地球に来た王子さまが一匹のキツネと会います。このキツネが言います。「心で見なくちゃ、ものごとはよく見えないってことさ。かんじんなことは、目にみえないんだよ。」(内藤濯訳、以下同様「目に映る現象」だけではなく、「心の目」で見ないといけないことを教わるのです。このキツネと王子さまの一連の場面が、私の一番好きな、本当にいい場面なのですが、いわゆるネタバレになるので、ここまでにしておきます。

 

目に見えるものより 目に見えないものを

 さて、こういった考え方は聖書の中にもあります。「コリント人への第二の手」の中に次のような一節があります(4章18節)

 「私たちは、見えるものにではなく、見えないものにこそ目を留めます。見えるものは一時的であり、見えないものはいつまでも続くからです。」*

 目に見えない大切なものというと、どのようなものを思い浮かべますか。例えば愛とか友情とか思いやりとか、自分を幸せな気持ちにしてくれる、本当に大切なものは目に見えないですよね。そして「思いやり」は箱の中身を透視するように、相手の見えない心の中を想像することです。もちろん生きていくためには目に見える物質的な豊かさが、ある程度必要です。しかしそれだけでは幸せにはなれない。目に見えないものをイメージする心の豊かがなければ。(つづく)

校長 村手元樹

 

*「コリント人への第二の手紙」・・・『新約聖書』に収められている書簡。使徒パウロがコリントの教会に宛てて書いた手紙の一つ。

 

📙読書の手引き📙 「心の目で見るとはどういうことか、物語を通して考えてみよう。