【長崎紀行2025②】旅のあらまし後半
2025.12.02

格闘するカンガルー@長崎バイオパーク

近っ!@長崎バイオパーク


 

◇3日目~ 自然を体感する旅◇

11月11日(火)、3日目の午前はコース別分散研修。私は「長崎バイオパーク」コースに参加した。バイオパークは、生物とふれあいながら、自然との調和の尊さを知ることができる動植物園である。曲がりくねった道やトンネルを通り、順路に沿って進んでいく先々で、動物たちとの思わぬ出会いが待ち構えている。しかも本当に身近に見られたり、餌やり体験ができたりする。ワクワクどきどきし、心癒される、ひと時であった。

このコースの昼食は、ホテル日航ハウステンボスでの「ランチブッフェ」である。11月は「北海道グルメフェア」を開催中で、長崎の地で北海道の味を堪能できるというのもまた乙なものである。


ヨーロピアン・ホーリー・クリスマス


 

◇一足先のホーリー・ナイト◇

4つに分かれていたコースがそれぞれに昼食を済ませ、三々五々ハウステンボスに入場し、園内で各自、夜まで過ごすことになる。ラッキーなことに11月7日からクリスマスイベント「European Holy Christmas ヨーロピアン・ホーリー・クリスマス」が始まっており、クリスマスの飾りつけやイルミネーション、ショーなど、聖夜のヨーロッパの街並みを体感できた。ハウステンボスも年々、アトラクションが充実して来ていて、しかも老若男女が楽しめるという印象を受けた。私が今年体験したアトラクションの中から良かったと思ったものを幾つか紹介したい。

まず「エアクルーズ・ザ・ライド」。今年新たに登場したアトラクション。地球上の絶景を空から眺め、地球の美しさを全身で感じる旅。ドームスクリーンなので、画面を見ているというより、没入感、臨場感がすごく、とても爽快な気分になった。

次に「VRワールド」の「ウルトラ逆バンジー」のバージョン。もう一つ「激流ラフティング」のバージョンがあるが、これは時間の関係で行けなかった。VRゴーグルを装着して、VR空間で逆バンジーを体験する。錯覚と分かっていても怖くて身が縮む。居合わせた人は皆、絶叫。隣にいた見知らぬ年配の女性は「私、目つぶっているから大丈夫。」と宣言。(意味ないじゃん!)と思いつつも共感。

3つめは「ミッション・ディープシー Xsenseライド」。入っていくと、超深海に潜航した探査機「オリオン」が消息を絶ち、それを救出するミッションの一員として選ばれたことをいきなり告げられる。「そうなんだ~」と思いつつ、選ばれた隊員たち(たまたま行列に一緒に並んでいた、見知らぬ、入場者たち)とともに最新探査艇“アレイオン”に乗り込み、救助活動に参加。各自は何をするということもなく、ただ乗っていただけだが、数分後、苦難を乗り越え、無事救出に成功したらしい。面白いのは、制服を着た、女性のチーフの隊員(ハウステンボスのスタッフ)がいろいろ指示してくれるのだが、そのチーフが「分かりましたか?」と言うと、私たちは「にわか隊員」なので、最初は、お調子者のおじさんが「はい」というくらい。「声が小さいですね。もう一度、訊きます。分かりましたか?」と言うと、皆、声をそろえて「はい!」。隊員としての自覚と一体感が徐々に芽生えてくる。チーフが敬礼をして、一人ひとりを送り出してくれるのだが、こちらも敬礼を返すと「いい敬礼です!」と誉めてもらえて、少し嬉しい気分になる。これも没入感であろうか。


カトリック中町教会


 

◇4日目~ 旅の締めくくり◇

11月12日(水)、最終日を迎えた。朝、ハウステンボスのある佐世保を出発し、「カトリック中町教会」に到着。長崎駅のほど近く、120年以上の歴史を持つ教会である。修学旅行の締めくくりとして、「みことばの祭儀」を行い、平和の祈りを捧げた。今年も長崎南山中学校・高等学校の校長でもある西経一神父に司式をしていただく幸運に恵まれた。私にとって西神父様のお話をお聞きするのは何度目だろう。今回は特に今までお聞きしたお話のエッセンスが散りばめられて、ベストアルバムのような感慨が湧き上がってくる。名曲が何度聞いても感動がその都度、再生されるように、笑いと涙の緩急を織り交ぜたお話が心に染みる。

修学旅行を終えた後、何人かの生徒に「修学旅行の何が一番よかったですか?」と尋ねた。長崎市内研修、3日目のコース別分散研修、ハウステンボスに交じって、「神父様のお話に感動して涙が出ました。」と答えた生徒もいた。各自の心にも刻まれていることだろう。以下、神父様のお話の概要を示す。

 

◇西神父のお話◇

世の中は基本的に「やり取り」「交換」の原理で成り立っている。これが世の中の仕組み。労働と賃金も交換、資格と就職も交換、点数と合格も交換。交換するために必要な道具が「比べる」こと。天秤のように右と左を比べてバランスが取れれば交換が成り立つ。君たちは16年、17年生きて来て、この交換するということ、比べるということで、いっぱい傷ついている。誰かと誰かと比べっこして、君がいなくても大丈夫、交換できるから、という感じで・・・。人は比べっこされると本当に心が痛む。なぜか?それはそれが嘘だから。君たちの一人ひとりが比べられない。唯一無二のたった一人の人間なんです。

やり取りや交換なしに、無条件に、君に向かって「君はいい子」だと言ってくださる方がいる。何もできなかった無力な赤ん坊の時、何の理由もなく、交換もなく、「よしよし、いい子」と頭を撫でてくださった方を「お父さん、お母さん」と言う。

将来、プロポーズされたら、その相手にこう質問しなさい。「どうして私と結婚したいの?」その時に「髪がきれいだから」とか「瞳がきれいだから」とか言う人と結婚してはいけない。答えはたった一つ。何の条件なしに「君が君だからだよ。」(I love you because you are you.)と言ってくれる人とだけ結婚しなさい。

将来、子供ができて、その子供が「お母さん、どうして僕のことが可愛いの?」と訊かれたら、「おばかさんだね、どうしてなんていらないんだよ、お前だから可愛いよ。」と言ってあげる母親になるんだよ。

「どうして私は尊いんですか」と訊かれたら「それはあなただからです。」と言ってあげる女性であり母であってください。そしてきっと、そういう世界に平和が訪れると思います。

 

◇愛と平和と◇

西神父のお話を思い起こしながら、ふと、自身も被爆しながらも多くの人の治療に力を尽くした永井隆博士のことが浮かぶ。2日目の見学場所であった「長崎原爆資料館」に永井隆博士のコーナーがある。そこに永井博士の手による、2つの書が展示されている。「平和を」という書と「如己愛人」という書である。「如己愛人(にょこあいじん)」は、聖書のみ言葉「己の如く人を愛せよ」(マルコによる福音12章31節)で、永井博士がモットーとした言葉である。自分をかけがえのない者として愛すること、それと同じように他者をかけがえのない者として愛すること、それが平和の原点。その2つの書もそう語りかけている。長崎修学旅行は愛と平和の意味について改めて考え、学ぶ旅でもあるのだ。

旅は非日常の空間である。私たちは旅を終えると日常に戻る。しかし何もかもすっかり元に戻るわけではない。通り過ぎた場所で何かしら受け取った思いを持って、何か微妙に新しい自分として日常を始めるのだと思う。

校長 村手元樹