【せっかくBOOK②】サン=テグジュペリ『星の王子さま』その1
2025.05.03

デイジー @カピタニオ・ガーデン


 

『星の王子さま』は読みましたか

 理由はともあれ、ミッションスクールに来たなら、一度は手に取ってほしい本不朽の名作『星の王子さま』(1943)です。ミッションスクールとか関係なしに「キリスト教ってどういう考え方だろう?」とか初学として先ず大まかにイメージしたい時でもいいかもしれません

キリスト教の考え方を作者のサン=テグジュペリがどれほど意識して書いたかは不明です。でもキリスト教の精神に通じているのは確かです。さらに言えば、キリスト教という枠組みから広がって、人間や人生に関する普遍的な思想が流れているとも言えます。例えば英米文学者でもある禅僧、重松宗育さんによる『星の王子さま、禅を語る』(ちくま文庫、2013)は『星の王子さま』が禅の教えにも通じることを示しています。

 「童話」のカテゴリーにも入る作品ですが、高校生に訊くと、子どもの頃、何となく読んだことあっても「よく分からなかった」「意外と難しかった」という感想をよく聞きます。その通りで、人生論や文明批評など抽象度が高く、深い内容も含まれているので、是非読み返してほしいと思います。人生経験を積むと、むかし分からなかった箇所が分かるようになっていることもあります。疑問を抱えながら、じっくり読んでは考え、長い時間をかけて何度も読み直していく、いわゆるスロー・リーディングに適した本です。

 

作者サン=テグジュペリの魅力

 『星の王子さま』もちろん、その作品自体も魅力的ですが、バックグラウンドもまた魅力的で、特に作者のサン=テグジュペリに関しては実に興味深いです。

サン=テグジュペリはフランスの作家です。生まれた年は何と1900年。覚えやすいですね。彼は作家であると同時にパイロットでした。飛行機と言っても旅客機ではなく、一人乗りで、郵便物を運んでいました。第二次世界大戦では偵察機に乗り、1944年上空で消息を絶ち、還らぬ人となってしまいました。飛行機乗りだったことは彼の文学に大きな影響を与えていると思います。地上を俯瞰(全体を上から見ること)する習慣は、肝心なことを見落としがちな人間社会を客観的に捉え直す目を養いました。

星の王子さまにもサン=テグジュペリがモデルと思われるパイロットが出てきて、砂漠に不時着して王子さまと出会うところから物語が始まります。だから彼自身の人生と『星の王子さま』の内容は密接に繋がっているのです。彼の飛行機乗りとしての実際の体験は、『夜間飛行』(1931)(新潮文庫、1955)(『人間の土地』(1939)(新潮文庫、1955)で語られています。機会があれば是非これらの作品も読んでみてください。

 スタジオジブリの宮崎駿さんも、サン=テグジュペリの愛読者であることはよく知られています。彼の作品にも大きな影響を与え、特に飛行機乗りとしてサン=テグジュペリが考えたこと・感じたことが宮崎アニメに投影されていることは想像に難くありません。ちなみに新潮文庫の『人間の土地』のあとがきも宮崎監督が書いており、表紙絵も彼によるものです。

 

訳者・内藤濯について

 サン=テグジュペリが『星の王子さま』の「産みの親」なら、日本における「育ての親」は間違いなく内藤濯(あろう)さんです。この作品は1954年、内藤濯によって翻訳され、日本で初めて出版されました。名訳もさることながら、『星の王子さま』という邦題をつけたのは大きな功績です。原題の『Le Petit Prince』直訳して『小さな王子さま』にしていたら日本でこれほど有名にならなかったかもしれません。邦題はその作品のその後の運命を左右します。

 2005年に原著の著作権の保護期間が終わり、さまざまな訳者が翻訳し、各社から出版される前まで、日本では内藤濯訳の岩波書店版で親しまれていました。翻訳から70年以上経っているので、少し言い回しが古かったりしますが、味のある翻訳なので、個人的には最初は内藤濯訳で読むことをオススメします。幸運なことに2017年に気軽に携帯できる「岩波文庫」版も出版されました。(つづく)

校長 村手元樹