【せっかくBOOK④】サン=テグジュペリ『星の王子さま』その3
2025.05.22

ペチュニア @カピタニオ・ガーデン


 

◇愛について◇

 『星の王子さま』を読む上で、もう一つ大切なポイントを押さえておきます。それは『星の王子さま』という小説が「愛とは何か?」という問題を提起としているという点です。この物語を通して伝えている愛の本質の一端に触れてみてください。

実際、愛とは何でしょう? 愛はこういうものだと一言で言えたら、愛をテーマにした小説など要りません。つかみきれないものだからこそ、古今東西の多くの作家たちが様々な物語を書いて、目に見えない愛というものに自分なりのアプローチで迫ろうとしているのだと思います。そして小説を書いたり、読んだりする意味の一つもそこにあります。

キリスト教は「愛の宗教」と言われ、愛をその思想の中心に据えます。愛することの大切さは、キリスト教だけに通じることではありません。人間にとって普遍的に一番大切であることに間違いないと思います。

 

◇王子さまと赤いバラの花との愛の物語◇

王子さまは自分の星を飛び出し、放浪の旅に出るのですが、それは結局「愛とは何か」を学ぶ旅だったと言えます。このテーマの中心的な話が王子さまが自分の星で育てていた一輪の赤い花との話です。地球に来てこれがバラの花であることを知ります。王子さまは、その美しい花に愛情を注ぎますが、いつも我がままばかり言って王子さまを困らせる花の態度にほとほと疲れ果ててしまいます。そしてとうとう花を残して自分の星を飛び出てしまいます。

王子さまはその時のことをこう振り返ります。「ぼくは、どんなことになっても、花から逃げだしたりしちゃいけなかったんだ。(中略)だけど、ぼくは、あんまり小さかったから、あの花を愛するってことが、わからなかったんだ」

 

◇王子さまとキツネとの友愛◇

自分の星を出てから「星めぐり」をして7番目に来た星が地球です。地球に来ても王子さまはなかなか答えが見つかりません。そんな王子さまに愛することがどんなことかを助言するのが、偶然現れた一匹のキツネです。キツネは自分との関係を通してそれを伝えます。

孤独を感じ、友達を探す王子さまが、キツネに交友を求めると、キツネは「おれ、あんたと遊べないよ。飼いならされちゃいないんだから」と言います。「飼いならす」の意味を王子さまが尋ねると、「よく忘れられてることだがね。〈仲よくなる〉っていうことさ」と答え、また王子さまが「仲よくなる」意味を尋ね、キツネが説明します。この説明がとても詩的で優しく、心に響いてきます。それでいて核心を突いているところが秀逸です。

 

◇「飼いならす」=「仲よくなる」に込められた深い意味◇

「飼いならす」という言葉は、友情を語るには一見不向きな言葉です。「仲よくなる」も訳者の内藤濯さんはソフトに訳していますが、原語のフランス語では「créer des lines」(ヒモで繋ぐ)という言葉です。子供だけに向けた童話なら、友達になるためには、仲良くならないといけないよ、仲良くなるってどういうこと、お互いのことを大切にすることだよ、という具合でいいと思うんですが、随分シビアな(リアルな)表現になっているんですね。でもこういう違和感やひっかかりは読書にとって、とても大切です。自分の思考の壁を広げるきっかけとなります。

サン=テグジュペリはわざとそういう表現をして、愛の本質を伝えようとしていると思います。とても面白いのは、日本語の「きずな」(絆)という言葉の原義は「動物をつないでおく綱」です。そこから「人と人と断ちがたい関係性」の意味に派生したようです。こういうことも参考にして愛についての理解を深めてください。

そして王子さまはキツネと仲よしになり、そこからあの「王子さまの赤い花」との関係についても気づかされていくのです。(つづく)

校長 村手元樹

 

読書の手引き 「愛する」とはどういうことか、物語を通して考えてみよう。

 

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