【せっかくBOOK⑤】サン=テグジュペリ『星の王子さま』その4
2025.05.24

シャリンバイ(車輪梅) @正門前


 

◇「星めぐり」について◇ 

『星の王子さま』には、今まで述べたほかにも、示唆に富んだ場面がいくつかあります。「星めぐり」もそうです。星の王子さまは、自分の星を飛び出し、地球に来る前に6つの星を巡ります。「星めぐり」の意図としては「王子さまは、星の見物をはじめました。なにか仕事をさせてもらって、勉強しようというのでした。」と書かれています。言わば社会勉強のようなものです。

それぞれの星で「王さま」「うぬぼれ男」「呑み助」「実業屋」「点燈夫」「地理学者」という6人のキャラクターに出会います。どうしてこの面々なのか解釈は様々ですが、現代社会のあり様が投影されていることは確かです。王子さまは、この出会いを通して赤い花との関係性について考え、本当に大切なことは何かに気づいていきます。

王子さまは7番目の地球でキツネから大切なことを教わりますが、その言葉を理解する準備段階として、すでに「星めぐり」を通じて気づきはじめているのです。例えば「実業屋の星」の場面でも、王子さまは花のことを思い出し、実業屋の言うことに反論します。ここには「持つ(所有)」とは何かという深いテーマが根底にあります。

さらっと読み通さず、一つ一つの場面を深く味わってほしいと思います。

 

◇「人間ってやつぁ」というキツネの口癖◇

 キツネの文明批評についても注意を向けて読んでほしいところです。資本主義における人間のあり方について述べ、愛の精神を忘れがちであることを嘆いています。例えば「人間ってやつにゃ、趣味がないときてるんだ。」「人間ってやつぁ、いまじゃ、もう、なにもわかるひまがないんだ。」「人間っていうものは、このたいせつなことを忘れてるんだよ。」キツネの次に登場する転轍手(スイッチマン)も言っています。「人間ってやつぁ、いるところが気にいることなんて、ありゃしないよ。」

 

◇「王子さまは、忘れないようにくりかえしました。」◇

もう一つ読み味わってほしい表現は、キツネが別れに際して王子さまに「秘密」(人生の大切な真実)を教える場面で、キツネの大切な言葉を王子さまが一つひとつしっかりと反復する表現です。「・・・と、王子さまは、忘れないようにくりかえしました。」が3回続けて出てきます。キツネの言葉もさることながら、それを受ける王子さまの真摯な姿勢も秀逸です。

まるで「お祈り」のようだと言う人がいますが、私もそう思います。まさにミッションスクールでは毎日お祈りとか礼拝とか、大切な言葉を繰り返します。そうして繰り返さないと人は大切なことを忘れてしまいがちです。「お祈りってこういうものだな」と改めて感じます。

まだまだ「読みどころ」がいっぱいあるのですが、このくらいにしておきます。『星の王子さま』の旅を楽しんでください。Bon Voyage!

校長 村手元樹

 

読書の手引き 「星めぐり」の場面がそれぞれ何を伝えようとしているか、自分なりに考えてみよう。

 

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